とにかく1度、3,000m峰を、という考えがあった。
登りやすい山としては、富士山、北岳あたりがあるが、富士山はめちゃくちゃ混みそ
うだし、北岳は結構きついし、やっぱり混む。乗鞍はちょっと遠慮したいし、混み合う
北アルプスも敬遠。ましてや3日以上を要する南の南部は無理、となると仙丈岳が残る
。17年ぶりの南ア、しかも泊まりの山ですら大学4年の北八つ以来ともなれば、コース
はなるべく楽に限るということで北沢峠まで楽を決め込み、そこからも楽なコースとな
る。
この時期の中央線はとても混んでいる。1週間前に何とか禁煙席でとった『あずさ』 だが、台風接近で1日予定をずらしてキャンセル。高尾発の普通電車で甲府へ向かう。 永山を2番の電車で出掛けても、橋本でうまく横浜線に走り込めば高尾発6:15の松本行 きに乗れる。甲府ではバスを1時間以上待つと思いきや、世の中には便利なタクシーの 相乗りというものがあり、すぐに4人で乗車(1人2,500 円)広河原まで快適に車上の 人となる。
夜叉神峠のトンネルを出て観音峡で北岳と間の岳を眺めて休憩。運転手の説明では、 ここはフォッサマグナがとおっているという。野呂川沿いの断崖をタクシーは飛ばす。 道は細く、一般車も結構多いが大型車とのすれ違いはやりたくない、という感じの道で 、電車できてよかったと思う。途中から農鳥岳も見え白根三山を堪能しこれだけでもか なり満足する。近くから見る南アのビッグはすごい迫力だ。
タクシーのおかげで一本早い北沢峠行きのバスに乗れたので峠には11時に着いた。
北沢峠行きのバスの路線は一般車は通行禁止だが、この道は決して自分では運転した
くない。下を見るとぞっとするが、上を見れば、初めは北岳じきに仙丈も見え、甲斐駒
も見えなかなかいい。大樺沢の雪渓はかなり上部まで雪がついている。そういえば、バ
ットレス第4尾根の崩壊による落石がひどく八本歯のコルへの直登は避けるようにとの
注意書きが広河原にあった。北岳最短ルートももはやおしまいのようだ。
南アルプススーパー林道は私がまだ山を歩いていた高校当時からもめていたやつだが
、一旦開通してリムジンバスが走ればすっかり利用してしまう。
大平山荘への道からは山道となりすぐに登りが始まる。しかし最初は緩い。じきに斜 度も増すがこのコース一番の急坂はまだだろうと思いながら結構な急坂を登るとあには からんや大滝見台にでる。なんだ今のが急坂かとやや拍子ぬけといいたいが、実はほっ としている。
やがて藪沢沿いの道に出ると振り返れば、甲斐駒や鋸が雄大な姿を見せる。藪沢上部
はまだ雪も残っている。登山者は少ない。上部をよくみると人が歩いているのが分かる
。このあたりから結構ばてているのが自分でわかる。バランスが悪くふつうの道でもふ
らつく始末。情けない。もっとも今日の行動にも問題があった。まず飯を食っていない
。甲府の駅でバスを待つあいだにゆっくり食おうとおもっていたのがすぐタクシーに乗
ってしまい弁当も買わず。広河原で何か買おうとおもったら何もない。ロッジでは11時
半から昼飯が食えるはずだったが、タクシーのせいで早くついたのでそれも出来ず。
それでも何とかコースタイムどおりに馬の背ヒュッテに着く。
馬の背ヒュッテは最近新築したらしく小屋自体はきれいだが、今まで泊まった小屋の なかでは一番小屋らしくない。まず、土間とストーブがない。ランプがない。小屋番の オッサンがいなくて学生アルバイトしかいない。とにかく人をつめこんで泊める機能だ けの小屋だ。ただしトイレは山のなかではきれいなほうだ。
小屋の裏手からは甲斐駒が見える。あたりは高山植物が多く、シナノキンバイやらハ クサンフウロやチシマキキョウ、ハクサンイチゲ、コイワカガミといった見慣れた植物 が多い。どうやら湿性植物の宝庫のようだ。
平日とはいえやっぱりこの時期は混む。今日はそれでも空いているほうで一人半畳の 布団があたえられ両肩を床に着けて寝ることができた。うすいカレーライスの夕食も、 殆どおかずのない弁当の朝食も5,500 円の料金では仕方ない。雨が降っても濡れないだ けでも幸せなもの。
あまり良くねられないまま3時すぎとなり起床する。何組かはすでに歩きはじめてい るようだ。4時すぎに薄明かりの中を歩き始める。馬の背にでるともはやヘッドランプ も不要で甲斐駒と鋸の間も朝焼けで明るい。秩父の金峰や国師方面は快晴のようだ。
上部をみるとあいにく頂上付近はガスの中だ。甲斐駒も頂上付近だけ雲に覆われてい
る。仙丈の頂を隠す雲と甲斐駒の雲は同じだからおそらく雲底は2,900m位か。
振り返れば、朝日のなか奥秩父の連山や鋸の背後の八ヶ岳がきれいにシルエットを描
いている。この構図は写真集『日本アルプス100 コース』で見た。伊那側はガスで何も
見えない。しだいにカールの底をいく感じになり、こんなところに沢があるのかという
感じの藪沢上部を歩く。南ア最高所の水場だ。やがて仙丈小屋の幕営地。幾張かのテン
トが見えるがすでに活動している。すでにガスのなかで何も見えないが、濃いほどでは
なく視界もそれなりにきくので、ここでしばし休憩しながらガスが晴れるのを待つ。
待つこと30分、状態変わらずまた、テント部隊もみなのぼっていくので私も行動開始
とする。カールの最上部はガレ地でまさにアルプスという感じでよい。残雪も多く、歩
行ルートにはかからないもののかなりの量だ。あいかわらず人は少ない。馬の背ヒュッ
テのあれだけの人はどこへいったのだろう。
頂上への稜線は伊那からの風が強く、吹き飛ばされそうになりながら登る。風の強さ
もあり、体感温度が急激に下がってくる。気温は100mで0.6 °C下がるから3,000mでは
単純計算でも下界よりも18°C は低いが、6時前のこの時間ではおそらく10°C 以下だ
ろう。
頂上には誰もいない。風の音をべつにすれば静かな山頂だ。山頂の岩を背に風をよけ
、ガスの晴れるのを待っているとやがて山頂も他の登山者で賑わい始めた。時折伊那側
のガスが切れ、中央アルプス方面が見えるが、期待していた南アのビッグは見えない。
30分以上粘ってみたが、これ以上は女々しいと思い小仙丈への道を歩くことにした。
小仙丈への道はきままな稜線漫歩で小1時間ほどで着く。
このあたりまで高度を下げるとガスも晴れる。振り返ると山頂付近は相変わらずのガ
スで北岳も同じ。小仙丈とて2,855mあり結構な高度だがこのあたりはこの200mが明暗を
分ける。ちなみに2,840mの鳳凰・観音岳あたりは快晴だ。今日は早川尾根が正解のよう
だ。
小仙丈からの展望も見事で北アこそ雲のなかで白馬方面と乗鞍が見れただけだが、ガ
ス巻く北岳の横に日本一の富士山も見えなかなか見事。大休止していると仙丈の山頂も
ガスが晴れた。チョッピリ残念な思いで見事なカールを眺める。南アのビッグはときお
りガスから顔を覗かせる。残る行程は2時間少々の下りのみ。時間も早くきままな時だ
。ためしにトランシーバでハムをウオッチするとこれまた凄い。平日というのに空きチ
ャネルがないほどでしかも殆どがフルスケールで入感してくる。そういえば傍らには山
岳部のパーティのひとりか、若い女性が1mほどのアンテナをたててトランシーバから
の声を聞いている。ついでにいえば、特定小電力トランシーバを手にしたパーティもい
た。
双眼鏡も威力を発揮する。邪魔でしょうがなかったがやはり持ってきてよかった。
そういえば20万図を忘れてしまったが、このくらいのところだと1枚の20万図では役
にたたない。今見えている範囲をカバーするには持参予定の『甲府』は勿論、『高山』
『東京』それに図幅名は知らないが関東北部や長野をカバーする必要がある。なにしろ
、遠く浅間山が八ヶ岳の向こうに見え、御岳や富士山、秩父まで見えるのだから。
ゆっくりしっかり滑らぬようにと思いながらも何度か転びながら下山する。みるみる
甲斐駒が高くなり、鳳凰も高くなる。北岳も相変わらず山頂付近はガスだがなかなか趣
のある姿を見せてくれる。三合めあたりからの姿は日本第二の高峰に相応しい。
おそらく9時広河原発の北沢峠行きのバスで着いた面々の登山者とすれ違いながら、
北沢峠を目指す。やがて工事の音が聞こえると峠は近い。
広河原では行きと同じ運転手のタクシーに相乗りし(今回は5人だったので1人 2,000 円)、やたら暑い甲府へ着く。なんとか『あずさ18号』のグリーン車を確保して 帰宅した。
ルートと時間: (6日)5:32 京王永山発 (7日) 4:10 馬の背ヒュッテ発 6:15 高尾発 5:10 仙丈小屋着 7:44 甲府着 5:30 仙丈小屋発 9:25 広河原着 (タクシー) 6:05 仙丈岳着 10:30 広河原発 6:45 仙丈岳発 10:55 北沢峠着 7:30 小仙丈岳着 11:05 北沢峠発 7:55 小仙丈岳発 11:10 大平山荘 8:30 大滝頭着 13:40 馬の背ヒュッテ着 8:45 大滝頭発 10:05 北沢峠着 11:15 北沢峠発 11:40 広河原着 12:50 甲府着 (タクシー) 14:06 甲府発 (あずさ18号) 15:05 八王子着