山旅この山の写真
   

燕・大天井・常念

    93年8月3日〜5日


lml.gifはカシミール用の場所表示です。

 なんとか槍ケ岳へ、と思ったのはいつのことか。去年は初の3,000m峰を仙丈で果たし たので今年は初の北アルプスをと考えた。北で3,000m峰は立山を除くと槍・穂高しかな い。(乗鞍は北アにはいれないのだ)それと上高地というところも是非見てみたかった 。

 そんな訳で表銀座を目指すがどうも出発前から天気は芳しくない。
 とりあえす、8月3日の夜に新宿西口の都庁バスターミナルを目指す。松本電鉄グル ープが運営する長距離深夜バスの利用者は観光客2割に登山者8割といったところだが 、私の乗る白馬ルートは半数が穂高下車で残りは大町と扇沢といったところですべて登 山者だ。立山や上高地行きには観光客も多いようだ。
 バスは談合坂SAまではたしかに中央道を走行していたが、時間かせぎのためにいつ か20号に下り、穂高へは4時40頃到着した。あまり眠れたとは言えないが、結構寝 ていたのかもしれない。いずれにしても夜行の電車よりはずいぶん楽だ。

 4人でタクシーに乗り中房温泉についたのは5時少しすぎ。空は青空が散見され、運 転手の話では昨日よりはいい天気とのこと。多少の期待を持ちながら合戦尾根に向かう 。合戦尾根は第3ベンチまでは『こんなもんか』というレベルであったが、それを過ぎ るとさすがに急になる。富士見ベンチについてもガスで富士山は見えず行く先を暗示し ている。ほぼ予定時間で合戦小屋にたどりつく。本来であればこのあたりから槍の穂先 が見えはじめるのだが。(以下、本来であればすばらしい眺めなのだがという記述は省略 してしまう)

 合戦の頭で森林限界を抜け同時に高山植物が咲き始める。最初に現れたのはコバイケ イソウとミヤマキンポウゲ、シナノキンバイ、ハクサンイチゲだ。道端にはイワウメや コイワカガミといった小粒が咲く。斜面は緩くなったものの、流石に夜行の疲れがでた か、燕山荘直前では結構ばてていた。なんとなく食事を作る気力もないままとりあえず 空身になって燕岳をめざす。30分ほどの散策とガイドブックには載っていたが、ばて た身には結構応えた。霧に浮かぶ風化花崗岩群は結構不気味だ。晴れていれば明るく見 えるのだろう。ちょうど南アの地蔵岳のオベリスクのように。
 それでもコマクサやチシマギキョウなどの高山植物がところどころに咲いていて目を 楽しまてくれる。まあ、今回は展望はゼロでもコマクサも見たし、『花の山旅』とかん がえれば十分だ、と自己満足する。

燕岳lml.gif

 『表銀座』『アルプス銀座』といっても天気が悪いとこんなものか、それほど人にも 会わず山頂は静かだった。

 山荘に戻ったのはまだ1時前。大天井まで3時間で4時には着ける。気乗りしないが 、このままここに泊まっても面白そうにない。とりあえず少しでも槍に近づくことにし よう。おでんを食べ、雨の降りだした縦走路を大天井めざして歩き始めるがすぐに後悔 しはじめる。道は平坦なのだが、荷物が重く足も重くかなり辛い。蛙岩を過ぎ地図には ない、大下りの途中で雨が本降りになる。何組かのパーティをやり過ごすと、まだ、歩 いている連中もいるなと安心する。(出発前に燕山荘に予約の電話をいれたときに『遅 くとも4時には着いて下さい』という声が気になっている)
 それはそうと途中のお花畑もなかなか見事だった。コマクサの保護地域は見事なコマ クサ群落があった。ついでに初めてライチョウを見た。これだけ初物に会えれば、展望 はゼロでも十分ではないか。そういえば一瞬だけ晴れて燕岳の全容が見れたのにも満足 した。

 唯一の鎖場(と思っていた)切通し岩をなんなくやり過ごし、小林喜作のレリーフを 横目でみながら大天井の斜面を登る。大天井ヒュッテまでは大きなトラバースだ。トラ バースの途中でわずかに霧が晴れ今まで何も見えなかった槍がかすかに霧の向こうに見 え、裏銀座の山々や立山が見えた。その辺りで休憩していた人達の興奮といったらなか った。しかし、大天井ヒュッテまでは遠かった。ガイドブックには何も記載されていな いが、かなりしんどい岩場があり下まで切れていて結構緊張したし、一瞬パニックにな りそうにもなった。これでは大キレットの飛騨泣きなんてとんでもないと感じる。
 あとで大天井ヒュッテで別の登山者がこの鎖場のことを盛んに罵っていた。ガイドブ ックにもないのでダチョウ倶楽部流にいえば「聞いてないよ」という感じのヘツリであ った。
 結局、20分で着くと勝手に考えていた道は本来40分の道で、通常は1時間かかる コースだというのが後で分かる。実際1時間かかった。結局4時に着けると思っていた 山荘へは4時間かかり、到着は5時になってしまった。

大天井岳lml.gif

 大天井ヒュッテは割りと混んでいたが、12人部屋に10人で寝ることができ、少な くとも去年の仙丈の馬の背ヒュッテよりは楽に眠れた。それに夕飯の見事なこと。雑誌 にはいろいろな山小屋の自慢の料理が出ていたが北アで最初に口にした夕食はなんとト ンカツにデザート付きでありびっくりした。お替わり自由のご飯を3杯と味噌汁2杯も 食べてしまった。ついでにいうとトイレはなかからそのまま行くことができトイレット ペーパーまであった。おどろき、おどろき。

 夜中の2時には月が出ていたらしいが、翌日は雨。
 昨日の鎖場で雨のときの怖さを知り、すっかり槍へ向かう気力を無くして常念を目指 すこととなる。常念小屋までいき一の沢を下るのだ。常念小屋から常念に登るかどうか は体調と天気次第となる。このコースは最近では『新アルプス銀座』といい、高低差が 少なくて中高年に人気のコースとのこと。中年に足を踏み入れた私には丁度よいかもし れない。
 はじめての北アルプスなのだし、それで十分ではないか。
 大天荘までは1時間はかかりますよ、と言われたコースタイム40分の巻き道をやは り1時間かけて行く。途中多少の岩場もあり緊張しばし。大天荘では瞬間、東側が晴れ るが山が見える状態でもない。大天井岳のピークも踏まずに歩きはじめる。ここからは 基本的には下りだ。遠くから見ると緩やかな斜面に平坦な縦走路だが、30度の斜面沿 いの縦走路は考えてみると結構こわい。スキーで30度といえばころんだら止まらない 急斜面だもの。疲れて谷側によろけたらやっぱりとまらないんだろう、などと思う。

 東天井の手前で急に晴れた。それは本当に唐突に晴れたという感じで山の天気らしい 。はじめのうちはぼんやりと穂高が見えるぐらいだったが、そのうち綺麗に晴れ上がっ た。槍の穂先と奥穂のあたりはガスのままだったが、立山から裏銀座、そしておそらく 乗鞍あたりまで綺麗に見えた。槍・穂高は随分と残雪が多くとてもきれいに見えた。夢 にまで?見た雄姿をやっと見ることができた。すぐ先のピークからは後立山の峰峰が白 馬から鹿島槍そして意外と大きな針の木、そして燕までよく見えたが、東の方は一面の 雲海で八ヶ岳や富士山、南アは見えなかった。
 ここから見る槍・穂高はちょうど鳳凰や夜叉神からみる白根ぐらいよりも少し小さめ か、たぶん笊からみる赤石、悪沢ぐらいの感覚ではないか。(見たことないが)いずれ にしてもかなりの迫力で迫る。左手の下の方に僅かに上高地が見えた。
 ほとんど同じペースで歩いていた二人組みは興奮して「これで、来た甲斐があった」 と盛んに繰り返していた。同感。彼らはハンディのビデオに向かい槍を指して「今度は あそこに登ります」と誓っていた。同感。彼らも昨日の大天井ヒュッテへのトラバース と天気に嫌気がさして、槍からこのルートに変更した組みなのだ。

 縦走路の彼方に常念が見える。かなり大きい。縦走路を歩きながらも時折右を見て槍 ・穂高を確認する。次第に雲がかかり、30分ほどで稜線はガスに隠されてしまった。 束の間の絶景だった。それでも『神さまはいるものだ』などと感じる。
 槍・穂高は見えなくなったが、上空は夏らしい青空で漸く雨具を脱ぐ。
 横通岳をトラバースし、常念小屋を目指す。近づくにつれ常念はどんどん大きくなり 、高くなる。常念の左半分すなわち信州側はすっかりガスのなかで右だけが晴れている 。槍・穂高は相変わらずガスのなかだ。大天井から意を決して槍にむかった連中も今は ガスの中かと思うと少々気の毒だ。
 常念小屋には10時前についた。小屋にはヘリが物資輸送で来ていた。上高地から飛 んできたのか槍沢の方から飛来した。
 先をいく二人は1時のタクシーを予約して一の沢にくだっていった。私は3時間の下 りを2時間30分で歩く元気はない。足もかなり痛くて中腰ができないほどだが、それ よりも荷物が重くて肩そして背中がかなり痛い。この状態ではこれ以上の縦走はもはや 無理。槍・穂高も相変わらず雲のなかだし、常念には登らずにゆっくり昼飯とした。
 結局ピークを踏んだのは燕岳ひとつということになるが、まあ構わない。
 やっぱり登山は体力、脚力だと痛感する。そして余計なものは持たずに軽量化を図る ことだ。同じコースを行くのにどうしてみんなあんなに荷物が少ないのだ。ツエルトぐ らいもってこいよ。

常念小屋lml.gif

 一の沢に下る前にハムをやってみた。QSOできていたのだが、すぐにQRMが酷く なり応答できなくなってしまった。
 ワッチしている間に何組かのパーティが一の沢から常念乗越にやってきては「やっぱ り槍が見えない」と悔しがっていた。ここは窓から槍が見える小屋なのだ。
 一の沢までの道は長かった。3時間の道だから3時間は歩かねばいけないのだが、そ の3時間が妙に長かった。途中で雨となり再び雨具をつけ、丁度3時間で林道終点に着 く。途中、王滝の名水を水筒に入れ帰宅後コーヒーを入れてみたが気のせいか美味しく 感じた。
 タクシーは3時20分の予約で40分余り時間があったが、すでに空車となったタク シーが乗せてくれたので思いのほか早く穂高駅に着いた。
 本日のあずさは全て満席とのことで、松本電鉄に電話して松本から新宿行の高速バス を予約し松本まで大糸線のローカル電車に乗る。
 松本は『松本城開城400年記念』だとか『信濃博覧会93』だとか『祝・松商学園 甲子園出場』だとかで妙に盛り上がっていた。
 19時10分発のバスまでに時間があるのでイトーヨーカドーの『砂場』というそれ らしきそば屋で飯を食う。
 駅ビルの薬屋で今回持参するのを忘れた耳栓『イヤーウィスパワー』を買い装着して 帰路につく。バスは時間どおりに運行し22時20分に新宿についた。     (終)

<コースタイム>
 8月4日  5:25 中房温泉発    9:10 合戦小屋着
       6:05 第一ベンチ着     30     発
         25      発     48 合戦の頭着
         53 第二ベンチ着  10:00     発
       7:00      発    :45 燕山荘着
         30 第三ベンチ着  11:30    発
         50      発     55 燕岳着
       8:25 富士見ベンチ着 12:05 燕岳発
         37       発    30 燕山荘着
                    13:00    発
                    17:00 大天井ヒュッテ着

 8月5日  5:45 大天井ヒュッテ発
       6:50 大天荘着
       7:05 大天荘発
       8:15 東天井岳着
      10:00 常念小屋着
      11:30 常念小屋発
      14:30 一の沢林道着

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