山旅日記|この山の写真 カシミール用LMLパッケージのダウンロード 1,018KB(←カシミール3D用LMLパッケージ)
奥秩父を堪能する・・・金峰山

2001/8/9-10

森林限界から見る山頂と五丈石  念願の金峰山(きんぷさん、信州ではきんぽうさん、とも読む)に行ってきました。いろいろな意味で、実りの山行でした。反省も多かったが・・・。

写真をカシミールにドロップすると写真を撮影した位置の地図が出ます。

1.二人の先達

 東京都の最高峰・雲取山(2018m)からはじまる奥秩父主脈は西に行くにつれて高度を増し、甲州・武蔵・信州の3国の境である甲武信(こぶし)岳付近で2400mを超え、国師ヶ岳南の北奥千丈岳で2601mのピークを迎える。その後も高度を下げることなく西の盟主で信仰の山としても栄えた金峰山2598mを興し、さらに瑞牆(みずがき)山・小川山に至り、信州峠を越えて横尾山で幕を閉じる。
 奥秩父といえば二人の先達の名を忘れてはならない。そのひとりの田部重治(たなべじゅうじ)のレリーフが東の雲取山にあるが、その田部を山へ誘ったもう一人の先達、木暮理太郎(こぐれりたろう)のレリーフが西の金峰山麓の金山(かなやま)平にある。
 中学の時に雲取山で田部のレリーフを見てから「わが山旅五十年」を買い、その山岳文学にはまったぼくとしては、木暮理太郎のレリーフもいつかは見ておかねばならない課題であった。

2.プロローグ

 金峰山と隣接する瑞牆山はともに百名山であるため人気があって、休日には駐車場からあふれた車が林道の路肩に並ぶという。今日は平日ではあるがお盆休みに近い夏休みだし、まあ路肩駐車もやむを得ないと思いつつ車を走らせる。天気はあまり良くないが、今日から東京地方は暑さが戻るというし、夏休みの残りわずかな日々を自宅のクーラーの中で過ごすというのも芸がない。まともな山には99年の北岳以来行っていないし・・・、では、中学以来行きたかった金峰山にでも、ということで中央道を下る。
 
瑞牆山荘前までNavin'Youはちゃんとガイドしてくれる。途中、トンネルをでたところで増富温泉に行く直進路が通行止めになっており、右折したが再検索ですぐにルート案内も戻る。1万円のカーナビソフトにしてはなかなか立派なものである。
増富温泉をすぎ本谷川沿いの林道に入るが道幅も広く全面舗装で快調に走れる。途中金山平をすぎると(木暮のレリーフは帰りに見るのだ)瑞牆山が見えた。うう、これを見ただけで満足。その先、金峰山が全容を見せた。おお、写真で見覚えのある金山平からの遠望だ・・・。うう、これを見ただけで満足

 瑞牆山荘前の駐車場は車が少ない、山荘前の駐車場は砂利が嫌だったので今年できたという100台収容の舗装済みの駐車場に停める。
 車は1台しかいない。
 路肩駐車を覚悟してきたのに拍子抜け・・・。
すると1台のセダンが泊まり、初老の男性が降りてきた。今日は天気が良くないので瑞牆山に上り明日天気の回復を祈って金峰山に行くという。
 
 さて、こちらの今日の予定は金峰山のピストン。たぶん夕方には戻れるだろう。疲れたらどこかに泊まる。でも金峰山小屋には泊まらないだろう、頂上まで行っただけでは少し早すぎる。とすると食事付きの小屋は金峰山小屋以外は瑞牆山荘しかないので、やっぱりここまで戻るか・・・。まあ、そのとき考えよう

3.登高

出だしは歩きやすい道である。体調は万全。昨日は昼寝も含めてよく寝たから。
 ほぼ予定タイムで富士見平に着く。テントを撤収している若者グループが居た。駐車場で会った初老の男性も直に現れ、瑞牆山方面へ歩いていった。
 その先、大日小屋までの登山道も歩きやすい。途中、稜線に出たところで下山する単独行者に会う。時折、天鳥川を隔てて、瑞牆山が木の間から見え隠れする。鷹見岩への分岐を分け、奥秩父らしい薄暗い道を歩くとやがて大日小屋に着く。見上げると大日岩の巨岩が見える。今日はあそこまで登ってしまえばあとは簡単だ(と、思っていた)。大日小屋の水場はここのところの水不足のせいか、富士川の源流(支流ではあるが)とは思えないチョロチョロの流れで500ccのペットボトルを満タンにするのに5分かかった。

大日岩の碑があるところには20分ほどで着いた。おお、けっこう速いじゃん、オレ、と思ったらその先の稜線上が「大日岩」なのでした・・・。ここで小川山への道を分ける。
 この先もゆるやかな稜線が続き徐々に高度を上げる。稜線に出たので時々樹林の間から金峰山が見える。ここから一気に急坂を登れば、森林限界で出る、と富嶽仙人さんの報告にあった。この坂がそうかな、と思うとまだ・・・。というのが何度か続き、道は木の根伝いになり徐々に歩きにくくなる。平らな道なら多少の傾斜があっても歩幅が自動的に調整されるので無理なく歩けるが木の根伝いになると大きく脚をあげたりするので一歩にかかるエネルギーがかなり大きくなってくる。予定時間よりもずいぶんと時間がたっている。大日岩をすぎて1時間以上かかっている。
 と思いながらも樹林帯を歩き続けると上の方が明るくなってきた。そろそろ樹林帯を抜ける頃・・・。それでも奥秩父を名乗るこの岩峰は森林限界の直前まで苔むした奥秩父の香りを味あわせてくれる・・・。なんともすばらしい。本来、荒川上流の山々を指すべき秩父を信州と甲州の境まで延長してしまったことについてはとやかく言われることもあるが、この雰囲気は確かに奥秩父だ。
 と、たしかに突然、頭上が明るくなり、視界が開けた。
 左手には金峰山の山頂とその右に五丈石が見える。
森林限界だ。
 おお、これこれ、今まで写真でしか見たことのなかった金峰山の山頂付近の姿だ。

 道はいきなり岩稜帯になり、これまで以上に一歩にエネルギーがかかる。
 岩稜帯になると岩の角に片足でバランスをとって立ったり、次の足の位置を決めて、時には跳んだり、あるいは手を使って岩を乗り越えたりするので歩くためのエネルギーが平地の3倍以上かかる気がする。身軽な小学生の方がこういう道は速い。
樹林帯でも涼しかったが、稜線に出ると風が気持ちいい。汗をかいてもどんどん乾いていく。それでも足は進まないが・・・。

 とにかく森林限界に出たので大休止して展望を楽しむ。
 遠望は効かないが、富士山が薄く見える。その右には毛無山、その右には本来は南アルプスが見えるはずだが、今日は見えない。手前に茅ヶ岳が見える。八ヶ岳も編笠山の大きな裾野しか見えない。向こうの方が標高が高いので当たり前ではあるが、八ヶ岳は意外な高さで聳えていた。  遠望が効かないと近くの山をよく見ようとする。今日の主役はやはり瑞牆山だ。奥秩父では異質の岩稜の山。大ヤスリの巨岩がここからもよく見える。小川山もどっしり大きい。
 さあて、頂上まではもう少し。
 休憩しているうちに一組が下っていった。歩き始めるとすぐに甲州側が切れ落ちている断崖になるが、道幅がひろく、覗いて通るレベルではないので危険を感じることはない。 中年の女性の単独行の人とすれ違う。

 とにかく人に会わない。ここまでで出会ったのは上記に記載した人だけ。
2600という中途半端な高さは夏には人気がないのかもしれない。みんなアルプスに行くのかな。あとは混むのは紅葉の時期だろうか。
 山頂までは腿にくる岩稜歩きが続く。五丈石も大きく迫ってきており頂上がすぐそこであることを教えてくれる。
 しかし五丈石はそれ以上はなかなか大きくならない。左下に見える金峰山小屋との高さの差がなかなか広がらない。地図を見ると小屋から山頂まで20分となっている。う〜ん、小屋への道を分けて何分経つのだ・・・。
 それでもいよいよ五丈石の左を巻くと突然山頂直下に出た。五丈石の後ろを見る。二組の登山者が居た。
 そのままわずかに登ると山頂になる。
 2598m、奥秩父第2の高峰の山頂である。
到着は12:59。出発から5時間半近い。う〜ん、予定より1時間遅れである。大日岩から上、特に森林限界より上の岩稜歩きが祟った。
 要するに大日岩までがポイントではなくてそこからがポイントだったのである。

MPEG4ムービー 537KB 22秒  天気はいいが、周囲の天気があまりよくない。富士山は見えなくなっていたが、ここまでくると奥秩父の主脈が見える。国師ヶ岳そして甲武信ヶ岳の3山、その右奥には大菩薩も見える。振り返れば小川山の稜線越しに天狗山と男山も見える。山頂でガス、というのと比較すれば、まあまあではないか。上出来上出来。
頂上の雰囲気は左のMPEG4ムービーで、パノラマ写真はこちら
 名前がわからないけど鳥もお祝い?に来てくれた(イワヒバリ?)。


4.下山

 とはいえ、足はもうがたがたである。  食事を済ませ下山を始める。13:39。下りは地図では3時間となっているが下りの遅さには定評のある足を考慮すれば4時間だろう。とすると下山は18時近い。この時間に小屋に入って夕食を頼むのはたとえ予約を入れてあっても躊躇するし、どうせなら風呂にでも入ってゆっくりするとなると食事付きの山小屋は避けて、金山平の2件の宿のうちどちらかがいいだろう。そんなことを考えながら岩稜下りを続ける。登りで休憩した森林限界のところで有井館に電話を入れる。電話に出たのは女将さんのようで快く予約を受け入れてくれた。(良い子のみなさんは事前に予約してから出かけましょう)
 その時になって思い出したが有井館といえば田部重治や木暮理太郎にゆかりのある古い宿だ。直前に読んだi.inoueさんのWebでの山行報告でもここのおばさんのことがふれられていた。

宿が決まると少し元気が出て歩き始めるが、樹林帯に入ると暗さが気になる。大日岩の小川山分岐までが遠かった。行きはまだ日が高かったので気にならなかったが、陽が傾き始めると樹林帯はとたんに暗くなってくる。歩いた記憶がない道もある・・・。分岐を見逃し、小川山への道を歩いているのでは、と思った瞬間、ちょっとぞっとした。まだ15時くらいだったが、3時間もすればすっかり足下は暗くなる。間違いに気がついてそれから下山していたらヘッドランプなしではとうてい歩けそうにない、などと考えていたらすぐに見覚えのある風景に出会ったので杞憂に終わったが、やっぱりヘッドランプはもって行かねば・・・(押入の奥にしまった大型ザックに入ったままなのでした・・・)。
 気がつくとストックの先のクッションが無くなっていた。また買わねば・・・。

大日小屋で水を補給しようとすると、けさ駐車場で会った男性に会った。瑞牆山に登ってここまで来たそうで、明日は金峰山に登るという。昨年会社をリタイヤしてかつてよく歩いたこの地域を今は気ままに歩いているという。時間はあるけど昔の体力はない、と言っていた。然り。瑞牆山はそこそこ人がいたようだ。金峰山に比べればやや手軽な山だからだろう。

   鷹見石への分岐を分けたあとで若めの女性二人組にすれ違った。登山の格好はしているが手にお弁当でも入っていそうなポリ袋を持っていたのでちょっと違和感があった。山歩きをする人は手提げ袋を持って歩くことはない。すでに16時を回っている。まさかこれから登頂ではないだろうから、大日小屋まで行くのだろう。先ほどの男性は今日はこの小屋はひとりだと言っていたが、話し相手ができることになりそうだ。

 富士見平まで来ると長かった下りも残りわずかとなり、花の写真を撮る余裕がやっと出てきた。
 そういえば今回はeggyの出番が全然なかった。
 登りの時、このあたりは鳥のさえずりが聞こえていい感じだったのだが、eggyを持ったまま歩くのは先を考えて止めた。帰りのこの時間はもう鳥が鳴いていない・・・。
 瑞牆山荘の直前でにわか雨に遭ったが、樹林帯のおかげでほとんど濡れることなく駐車場までたどりついた。直前で富士見平から降りてきた若者4人組に抜かれる。彼らは走るように坂を下っていったがどうやってももうあのようには歩けない・・・。あんなに走るように下って、なぜ転ばないのだろう・・・。
 

駐車場の車の数は朝と変化がない。ワンボックスカーが1台増えていたが先の若者たちのようですぐに居なくなった。
 
5.有井館

 金山平の有井館までは車でわずか。
有井館はいかにも古い宿という感じで母屋は茅葺き作りで客室部分だけ最近増築されたようだ。庭には多数の花が咲いていた。
 到着するとすでに先客が浴衣姿で庭のテーブルで金峰山を見上げながら酒を飲んでいた。
 風呂に入るとすぐにビールを飲み、少しばかり危なっかしかった今日の無事を祝う。
食事は山菜中心であったがもの凄い量が出た。予約するときに宿泊代も聞いていなかったが・・・。宿においてある本「山梨のそば」によると今は旅館よりも手打ちそば屋の方が有名らしい。有井館の紹介のページをデジカメで撮ったのでその一部を紹介する。

 宿の奥さんによれば家は明治からあったという。木暮理太郎の話を持ち出すと「最近は木暮理太郎も知らない人が多いし、予約するときもホテルなみの設備の要求があって困る」と嘆いていた。

木暮理太郎レリーフ
カメラマークが場所。赤い線はGPSログ。その左が有井館。左の棒はスケールです(単位:m)
 翌日、木暮理太郎のレリーフを見に行った。宿から200メートルほど登った場所にある(カシミール用のリンクはこれ)。
 これも奥さんに聞いたのだが、以前はもっと上にあったが見に行くのが大変なので今の位置に降ろしたそうだ。今は白樺林の中になってしまったが、移動したころは金峰も瑞牆もよく見える場所だったらしい。


レリーフにある「いわれ」には以下のように書いてある。

昭和25年5月7日、木暮理太郎翁の遺徳を永く世に伝えるため、木暮理太郎翁胸像建設委員会によって自然石を台とした胸像が、この位置の上方二百メートルの地点に建設されたが、昭和34年の7号台風によってその附近の崩壊はなはだしいためこれをこの地に移し再建した 昭和35年10月8日 木暮碑委員会

 道路からかなり離れているし、道路に案内板があるわけでもないので聞かないと場所はわからないだろう。その点、雲取山荘のすぐ横にある田部重治のレリーフの方が人目には止まることが多いかもしれない。ここに碑文レリーフを掲載しておく。
 先に紹介した本の中に有井館の前が以前は登山道だったと書いてあったので、レリーフへの道がそうなのかと思ったら違うとのことだった。  朝食もどうやっても喰いきれない量が出た・・・。そのあとさりげなく請求書がおかれていたが、その安さに驚いた。
 帰りに明野村の「ふるさと太陽館」で一風呂浴びようかと画策したが、到着してみると受付が10時とわかり(到着したのは9時前だった)あきらめて高速に乗る。談合坂付近の反対車線ではすでにお盆の帰省ラッシュの片鱗が見られた。
 八王子ICを降りてから、多摩テックのクア・ガーデンに寄って来た。
 打たせ湯で、固まりまくっている肩(荷物は軽いけどやっぱり凝るのね)とびりびりしている太股とわずかに痛む腰を打たせてもらった・・・。お湯はすべすべでちょっと気持ち悪いくらい・・・。風呂は良かったが「二八そば」はいまいち。せめてわさびくらいなんとかせいよ・・・。
 やっぱり今度は有井館のそばを喰いに行くか・・・。(終)


今回のルート(「山旅倶楽部」オンライン地図を使用。鳥瞰図表示はこちら
GPS+カシミールによるルート図

パノラマ写真|この山の写真
GoogleMapsでルートを再生(2006/11/5追加)


ログ
駐車場発 7:35 富士見平 8:26|8:34 大日小屋 9:49|10:04 大日岩 10:49 森林限界 12:00 金峰山 12:59|13:39 森林限界 14:32 大日岩  15:23 大日小屋 15:53|16:03 富士見平 16:55 駐車場  17:39 有井館  17:51


【番外編】
上のGPSルート図を見てほしい。このログは金峰山からの下りで取得したもので実は1つのログである。樹林帯が多いのになぜかわからないが、下りは1回もログが切れることなく1つで採れた。(登りは休憩時に意識的に電源をoffしたこともあるが28個のログ)。 それはさておき・・・。
 大日小屋付近のルートが地図上のルートと大きく離れている。昭文社の「山と高原地図」でもこの地図と同じルートになっているが、どうもこれは紙地図のルートの誤りのようでGPSの方が正しそう。GPSの位置情報(緯度・経度)は誤差6m程度(受信状況によっては30m、ただし標高も同程度にずれるようなので高さの方が相対的に誤差が大きい)。GPSレシーバーには緯度経度と標高が表示されるが、位置情報を暗算や目視で紙地図上にプロットして現在位置を確認するのは至難の業なので、実際には標高を参考にすることが多い(間違った使い方ですね・・・、やっぱり)。で、休憩ポイントごとに標高を確認するのであるが、大日小屋付近ではどう見てもGPSでの標高表示が地図上の場所とは違うし、鷹見石(大日小屋の南南西にある2092mの岩峰)を見ている方向(広角も仰角)も地図上の位置からではこのようには見えないそうにない。
 晴れていれば実際の展望とカシミールでのシミュレーションを比較すれば一発でわかるでしょうが・・・。

【番外編2】
有井館で見た「山梨のそば」によれば開店当初は怒り肩だった長坂の「翁」の高橋さんも角がとれてきたようで・・、最近は子供と団体の来店も許可しているとか。でもやっぱりぼくは小諸の丁子庵の方が好きだなあ。


  山旅日記|ホーム